私は25年以上にわたり在宅医療に従事している内科医です。医療と福祉に住民が加わったネットワークを構築したいという想いで、平成28年に『みんなのWa』という個人団体を立ち上げて、手探りで地域活動を始めるに至りました。
在宅医療の現場におきましては、年々在宅での看取りの数が増えつつあります。国家としての方針もあり、好むと好まざるとにかかわらず "在宅死" は今後増加の一途を辿ることは間違いありません。しかしながら、何十年もの間病院の中に隠されてきた「死」を、ただ地域の中に放り投げるようなやり方では、戸惑うのは一般市民だけではありません。学ぶ場もなく、考える時間もなく、右往左往する医療や福祉の専門職の姿がそこにはあります。
高齢者に、あるいは治らない病気になった患者に対して「何もさせない生活」を送らせて、"金をかけずに上手に葬る" 日本の政治家の発想はこんなにも貧困です。そして、それに従う医療機関や介護事業者などがご褒美としての報酬を得ることができるのです。日本はこうして、今を、また、2025年以降の超高齢社会を乗り切ろうと考えています。
病気や障害で「死」に向き合いながら生きる人たちが、『家』という場に身を置く中で「何もできない、しない、させてもらえない生活」から脱却し、今、身の回りのことから少しずつでもより豊かに工夫が生まれ始めたとき、自分、周囲、社会全体は変わっていくと感じています。そこに寄り添いサポートすることが医療や福祉の真の役割ではないでしょうか。「利用者さんが求めているものは手厚い介護じゃなくて、自分も世の中の役に立っているとか自分もまだやれるという自信です。 」ヘルパーである友人の言葉です。
2025年問題を取り上げるまでもなく、社会が抱える問題の深刻さが増しつつあることを実感せざるを得ない今日この頃ですが、この世に生きるすべての人が、死の瞬間まで尊厳を失うことなく「生」を全うできる社会を目指して活動していく所存です。
◯「いのち」に、あるいは「死」に、いかに向き合うか。
◯私たちの魂が真に求めているものは何であるか。
ここに意識を集中させたときに初めて、問題解決の方向性が見えてくる気がしています。
みんなのWaとして現在考えております取り組みのひとつとして、「メディカルケアタウン構想」があります。ひとつの小さな理想郷をつくり、そこを拠点にネットワークを広げていくというイメージです。
以下、概略です。
●住居
・新しく建てる(木造)
・空き家を利用する
→ここに、看護小規模多機能、サービス付き高齢者住宅等を検討中。
●交流の場
・老若男女、障がいや病気の有無にかかわらず誰もが集える場所をつくる
●食事
・「健康」への意識啓発
・農業:畑をつくる
…自然農・自然栽培もしくはオーガニック
・農福連携
・レストラン
・こども食堂
●教育やイベント
・「子どもの健全育成」と「高齢者や障がい者の社会参加」
・生涯を通じて学び合う:セミナー、フォーラム、ミニ講座
・心身の健康を保つためのイベント
●医療・ケア
・個々の生が尊重された暮らしをサポートする
・死の尊厳を壊すことのない看取り
※そこに住む人々が、立場を超えて交流し、老いても病んでも、お互い支え合いながら、『生』を楽しみ『死』を祝う。
・医療・福祉専門職
・病院、施設
・NPOなど各種団体
・企業
・警察・消防
・学校、その他教育機関
・商店街
・町会、自治会
・住民
・ICTを用いた連携システム
→メディカルケアステーション(MCS)の応用的活用
・・・ネットワークの中核組織をみんなのWaが担って行きたい。
このような「メディカルケアタウン」をつくるための土地、金、人をどのように確保していくかが今後の大きな課題となります。
2017年2月23日
東郷清児